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学校長挨拶

「学校」を成長させる

北海道帯広聾学校長 大塚 雅彦

 

 令和5年度もまもなく終わります。卒業式の練習が始まり、幼稚部の年長さんは小学1年生になる喜びにうきうきしている様子が見られます。本校を巣立っていく中学部3年生は、不安と期待と地元を離れる寂しさがない交ぜになりながら、思い出づくりにいそしんでいるようです。

 「ソーシャル・ディスタンス」という言葉も最近はあまり耳にしなくなりましたが、身体的な距離感や、表情が読み取りにくいマスクを着用する生活は、致し方ないことではありますが、心の距離をもつくってしまったように思います。

 新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行してから、本校は運動会等の行事などの打ち上げや懇親会を再開しましたが、酒席に限らず、心を開いて語らう懇親の場というのは、本当に大切なものだったんだな、ということを実感しました。久しぶりに、転出する先生や職員のための送別会も開催できそうです。

 

 今年度はいろいろな取組をしました。その中で、少し手応えを感じたものを紹介します。

 4月の人事異動で、他の障がい種の特別支援学校から本校に赴任される先生もいます。異動して、数日後には子どもたちを迎え、1学期の教科学習がすぐに始まります。小・中学校と同じ教科書を使って授業するためにがっつりと教材研究をして、初めて出会う聴覚障がいのある子どもたちと向き合い、幼稚部においては最初は子どもたちとうまく関われない、あるいは振り回されながら、冷や汗をかきながら毎日を過ごしていることだろう(悩まないわけがない)、とずっと気になっていました。

 そこで、夏休みに、初任段階(1~5年目)の先生と、聾学校の経験の短いベテランの先生のための学習会を開催することにしました。

 年度途中の思いつきだったため、研究部の負担にならないように、「校長主催」ということで取り組んだのですが、対象の先生がほとんど参加してくれて、小集団の中で、現在抱えている悩み、手話がなかなか覚えられない焦り、授業力に自信がもてない困惑、今さら聞くに聞けない専門用語の難解など、たくさんの発言がありました。それぞれの思いを共有し、学部を超えた先生同士のつながり、同僚性を少しでも高めることができたのではないかと感じました。

 以前受けた研修で、講師の知的障がい特別支援学校の先生から聞いた話ですが、その方の所属する特別支援学校に難聴のある知的障がいの児童がいて、聾学校から異動した先生が、聾学校ではスタンダードな方法で指導に当たったのですが、それは、他の先生方にとっては見たこともない指導方法で「目からうろこが落ちた思いだった」とのことでした。

 聾学校の「当たり前」が、他の障がい種にとっての新たな知見になり得るのならば、本校に異動してきた他障がいの専門性をもつ先生からも学ぶべきところがあるのではないか。聴覚障がい教育の専門性とハイブリッドで取り組むことで、大きな成果が得られるのではないか。そんな考え方もできるのではないかと思いました。

 「聴覚障がい教育の専門性は、聾学校間の教員の異動により維持・向上・強化するのが効率がよく効果的」と考えていたところでしたが、教職員の生き方が多様になってきた昨今、「聾学校からの転入者が少ない」という地方の聾学校の現状があります。しかし、今はそれを憂いているより、「他の障がい種の特別支援学校から転入した先生を、いかに味方にしていくか」「彼らの聴覚障がいの専門性と教科指導力を、いかに効率的に向上させていくか」という考え方にシフトしていく時期が来ているのかもしれない。そのように思うようになってきました。

 一方、この冬休みには、聾学校経験の「長い」先生(歴は問わず、学部主事・主任、分掌部長、行事等でリーダー的立場で動くことの多い先生等)を対象に、同様の学習会を行ってみました。そこでは、後輩にきちんと伝わるアドバイスの在り方、責任をもって遂行してもらえるような仕事の振り方、自分自身の仕事への向き合い方など、人材育成も踏まえた悩み事も出てきて、聾学校のベテラン教師ならではの困り感を共有することができました。

 得てして、教職経験の浅い、聾学校経験の短い先生への支援の必要性に目が行きがちですが、ミドルリーダーの本音にもじっくり耳を傾ける必要があることを痛感しました。主催した私にとっても大きな学びのある取組となりました。

 聾学校に勤める私たちは、聴覚障がい教育及び特別支援教育のプロフェッショナルという意識をもって、学校教育に取り組む必要があると思います。また、様々な取り組みを通して「学校」を成長させていくことが校長としての大命題だと踏まえ、今後も取り組んでいきたいと思います。

 さて、来年度は、全国聾学校教頭会総会・研究協議会が北海道で開催される予定です。

 参加される皆様に、北海道の聴覚障がい教育の「今」を感じていただけるような機会になればと思います。よろしくお願いします。

(令和6年3月)

帯広聾学校
2~3月。大雪が降っては解けて、の繰り返しです。

学校長挨拶(12月)

「存在」する学校にするために

北海道帯広聾学校長 大塚 雅彦

 北海道内には179の市町村があります。政令指定都市の札幌市のことを知らない人はいないと思いますが、「179市町村のすべての地名を知っている」という人はどのくらいいるでしょうか。  北海道はアイヌ語に由来する、北海道外の方々にとってはあまりなじみのない読み方をする地名がたくさんあります。中には「難読地名」と呼ばれる、北海道民でも読めない場所もあったりします。  その市町村や周辺地区に住んでいる人は当たり前に知っているけれど、縁もゆかりもない人にとっては、「そんな地名あったっけ?」、「それって北海道にあるの?」ということも少なくないと思います。  さて、10月末に、北海道内の特別支援学校PTAの全道大会が、本校をメイン会場に行われました。隣接する帯広盲学校とともに主管校となり、オンラインで開催しました。  その折に、十勝の南西部にある中札内村の森田匡彦村長を講師に、記念講演を行いました。  かねてより森田村長は、村内にある中札内高等養護学校を本当によく御存知で、学校と村役場等とのコラボによる取り組みが大きな教育的成果を生んでいます。  中札内村は、SNSによる情報発信での広報・啓発とともに、どの自治体でも行っていることながら、それをとにかく徹底的に力を入れて実施し、その取り組みの成果は数値にも現れ、ふるさと納税額が以前の約65倍にまで跳ね上がったそうです。  そして、冒頭に記述した地名に関することにも触れられていました。 「知られていないのは、存在していないのと同じことです」 「本日、このようにお話しする機会をいただいて、これまで中札内村を知らなかった方々の中に、今、中札内村が存在しました」 とお話しされていたのが、とても印象的でした。  今年、創立86周年になる本校ではありますが、市内において、決して認知度が高いわけではありません。本校を人々の中に存在するものとするための方法はいろいろあるのだ、と背中を押された気がしました。  考えてみれは、ホームページというものは、基本的にそのページに用がある方しか訪れないものです。ですから、本校でホームページの更新に力を入れ、それなりに成果を挙げていると思っていましたが、定期的に見てくださる方でなければ更新されていることを知るすべはありません。もっと広がりをもたせる方法が、まだまだあるはずです。  確かにその通り。その通りなのですが。  やはりセキュリティ面、炎上案件の未然防止など、不安は尽きません。しかし、それは学校ホームページの運用と、さほど変わらないような気もします。  情報発信の方法であるSNSは数多く存在し、どのように選んで、どのように運用すれば、業務過多にならずに効果的に本校のことを知っていただくことができるのか。  北海道内でも、既にSNSを活用して情報発信している特別支援学校が数校あります。そういった先行事例を参考にしながら、次年度に向けてしっかり考えていきたいと思います。  多くの人々の中に、帯広聾学校が「存在」するように、教職員と一緒に知恵を絞りながら取り組んでいきたいと考えています。

(令和5年12月)

 ※中札内村長に、掲載許可をいただいています。

冬の帯広聾学校

冬の帯広聾学校 12月の帯広聾学校